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薬が効かない?! 耐性菌の脅威 全国保険医団体連合会の記事から参照

この記事は全国保険医団体連合会月刊誌からで八木哲也氏/名古屋大学大学院医学系研究科教授に引用の許可をいただいております。

抗生物質の 飲みすぎ、中断に注意 

みなさんは「薬剤耐性菌」という言葉を聞 いたことがあるでしょうか。 抗生物質などの抗菌薬が効かなくなった細 菌のことで、複数の薬が効かない「多剤耐性 菌」も出てきています。どんどん耐性菌が増えれば、新しい薬の開発も追いつきません。 そのような菌がまん延すると、感染症治療は 困難になり、約 90 年前のペニシリン発見以 前の世界に逆戻りしてしまうのではないかと 恐れられています。 今、そうした耐性菌が世界中で増えており、 今後、何も対策を取らなければ、2050 年ま でに、がんで死亡する人数を超えて 1000 万人もの人が、治療薬のない薬剤耐性菌の感染 症で命を落とすという試算もあります。 世界保健機構(WHO)は各国に対策を呼びかけ、日本でも 2016 年にアクションプラ ンを策定。11 月を「薬剤耐性対策推進月間」 に設定して力を入れています。 

耐性菌ができるまで 

まず、薬剤耐性菌は、どのようにできるのでしょうか。 抗菌薬を使い続けると、細菌たちはそれに 負けまいと、DNA を変化させるなどして対 抗し、だんだんと薬に耐える力をつけていき ます。ただし、耐性菌ができたからすぐに病気になるというわけではありません。私たちの体には、たくさんの細菌が共生しており、 皮膚や口の中、腸内に「細菌叢」と呼ばれる細菌の集団(細菌群)をつくっています。この細菌群に外から薬剤耐性菌が入り込んでき ても、普通は菌どうしの栄養分の取り合いなどで生存環境は厳しく、定着は困難です。 ところが、抗菌薬を飲んだり注射したりすると、耐性菌の定着を防いでいた細菌群にも変化が生じます。その抗菌薬が効く菌は少なくなり、細菌群の多様性が失われて、耐性菌 が増殖することになります。 スウェーデンと英国のある共同研究では、 被験者が抗菌薬を飲むとすぐに各細菌群の多様性が低下しました。その影響は便の細菌群で大きく、約 4 カ月間続いた抗菌薬もありま した。 耐性菌が増えると、感染症を起こしたときに治療が難しくなり、重症化や流行のリスクが高 まります。免疫力の弱い乳幼児や妊婦、高齢者などは特に危険で命にもかかわります。 

子どもと高齢者への 抗菌薬使用が多い 

日本での抗菌薬販売量データから推計する と、1日あたり約 200 万人が、内服薬や点滴などで何らかの抗菌薬を使用している計算に なります。年齢別にみると、5~9歳の子ど もと 80 ~ 84 歳の高齢者が最も多く、子ども への投与量は大人に比べて数倍多く、一般的 な感染症に幅広く効くタイプの抗菌薬は、投 与日数で1歳前後の乳幼児が最も多いという 結果になりました。 幅広くいろいろな菌に効くというのは、一 見良さそうですが、耐性菌のことを考えるとそうばかりとも言えません。たくさんの菌に効くということは、細菌群の中の必要な菌も殺してしまいそれだけ多様性がなくなって耐性菌が増え放題ということになってしまい ます。 

抗菌薬不要な場合がほとんど 

昔、かぜなどで鼻水や喉の痛み、せきや痰 がひどいときなどに「抗生物質」を飲んだ覚 えのある患者さんも多いのではないでしょうか。その記憶から、抗菌薬を出してほしいと求める患者さんもいるかもしれません。しかし、かぜの原因は細菌ではなくウィルスなので、抗菌薬を飲んでも意味がありません。また、例えば急性気管支炎では、肺炎の合併症がなければ抗菌薬は不要な場合がほとんど です。ドロドロの鼻水が出たり喉に落ちたりする急性副鼻腔炎では、症状が重い場合は抗菌薬を使いますが、効く範囲が狭いタイプの抗菌薬をしっかり飲むことが 大切です。 

 

しっかり飲むことも大事 

この、「しっかり飲む」とい うことも、耐性菌対策では重 要です。1日何回、何日間と決められた量をきちんと飲まないと治療が中途半端になったり、やっつけたい細菌を死滅させることができず、薬に 耐えた細菌が生き残ってしまいます。
また、以前に出された抗菌薬が残っていても、自己判断で飲まないようにしてください。似たような症状でも、原因が同じとは限りませんし、実 際には必要のない抗菌薬を飲むことで、余分な副作用を引き起こしたり、耐性菌を発生させたりしてしまいます。 抗菌薬を飲むことで常在細菌群は減り、耐性菌は増えることになりますが、健康な人なら常在細菌群は時間をかけて復活してきます 

「抗生物質で早く治る」は間違い 

近年は、最初から抗菌薬を出さずに、せきや鼻水などの症状をやわらげる薬で様子を見 て、症状が良くならなかったり、悪化したりした場合に抗菌薬を使うやり方が実践されるようになってきています。 患者さんとしては、「早く治したい」「悪くならないか心配」と思うかもしれません。し かし、スペインや英国での調査では、かぜで受診した患者さんについて、様子を見てから 抗菌薬を出す方法でも症状が良くなるまでの期間は最初から抗菌薬を出した患者さんと変わらず、多くは抗菌薬を使わずに治っていきました。 抗菌薬を正しく使い、正しく飲んで、薬剤耐性菌が生まれるのを防がなければなりません。安心して治療に使うことのできる抗菌薬を次世代に残していくことが、私たちに課せられた重要な責任の一つではないでしょうか。 

(監修:八木哲也/名古屋大学大学院医学系研究科教授)

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