プリズム眼鏡の処方と複視治療:視能訓練士が解説
はじめに
こんにちは。おおるり眼科クリニック視能訓練士の滝です。今回の記事では、プリズム眼鏡について詳しくご説明いたします。プリズム眼鏡は複視(物が二重に見える症状)を補正するために用いられる特殊な眼鏡で、多くの患者さんの生活の質を向上させる重要な治療手段です。先日、第81回日本弱視斜視学会総会および第50回日本小児眼科学会総会に参加し、プリズム眼鏡の処方や複視(物が二重に見える症状)の治療に関する貴重な知見を得ることができました。
そこで今回は、学会で得た最新の情報をもとに、プリズム眼鏡の仕組みや処方のポイント、複視治療の最新事情について、わかりやすくご紹介します。
プリズム眼鏡とは?
プリズム眼鏡は、複視治療において重要な役割を果たす特殊な眼鏡として、多くの患者さんに活用されています 複視は、両眼の視線が正しく合わないことで起こる症状で、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。この視線のずれを光学的に補正することで、患者さんの生活の質を向上させることができるのがプリズム眼鏡です。このように、複視治療において重要な役割を果たす特殊な眼鏡として、多くの患者さんに活用されています。測り方のポイント
プリズム眼鏡の処方では、正確な測定が大切です。プリズムは角度によって効果が変わるので、慎重に扱う必要があります。横方向のずれの測り方
まず、水平方向のずれを補正する際の注意点をご説明します。- 患者の前額面とプリズムの後面を並行にする
- プリズムの厚い部分がズレと反対の方向に向くようにする
上下のずれの測り方
次に、上下方向のずれを補正する際の注意点をご説明します。- プリズムの平面を光源に向ける
- 縦方向(上下)のずれを補正する場合、プリズムの厚い部分を上または下に向けて装着
度数計算のポイント
プリズム眼鏡の処方で気をつけたいのは、プリズムを2枚使ったり左右の目に分けて入れたりする時の計算方法です。単純に「2枚のプリズムの度数を足せばいい」と思われがちですが、実際はそうではありません。なぜなら、プリズムの効果は足し算では正確に計算できないからです。 具体的な計算例- 20⊿+20⊿=47⊿(単純計算では40⊿)
- 40⊿+40⊿=339⊿(単純計算では80⊿)
素材と問題点
プリズム眼鏡の素材は、処方効果に大きく影響します。特に、従来の素材には様々な問題点がありました。従来の塩ビ素材フレネル膜プリズムの問題点
従来の素材には以下の問題点がありました。- 紫外線によって劣化するため、半年〜1年で交換しなければいけない
- 12⊿以上で有意に視力が低下する
- 硬化により落ちやすくなる
新しいシリコン素材の登場
近年、これらの問題点を改善したシリコン素材の膜プリズムが発売されました。クリアに見えるという意見がある一方で、プリズムを通して見ること自体が気持ち悪いという意見も多いです。 そのため、素材の選択は、患者さんの症状や生活スタイルに合わせて慎重に行う必要があります。成人の複視とプリズム眼鏡の処方
成人の複視は、様々な原因で起こります。主に脳血管障害、外傷、糖尿病などが主な原因として挙げられます。つまり、プリズム眼鏡は、これらの複視症状を改善する重要な治療手段となるわけです。麻痺性斜視の処方
麻痺性斜視は、発症後3ヶ月間は斜視角が変動、消失する可能性もあるため、斜視角が固定してから残存斜視に対してアプローチすることが一般的です。 さらに、私生活に支障をきたしており、変動期にプリズム眼鏡の処方を希望している患者さんには、斜視角が変動することを伝え、自然治癒を考慮してアプローチしていきます。調整時の注意点
プリズムで調整しても二重に見える場合は、目の回転による複視の可能性があります。「像がぼやけて1つにまとまらない」「はっきり1つに見えない」といった訴えがある場合は、単なる水平・垂直のずれだけでなく、眼の回旋(回転)による複視が残っている可能性を考慮する必要があります。 そのような場合は、目の回転による複視がないか確認し対応を考えます。度数決定方法
プリズムの度数は、患者さんが日常生活で最も困っている距離(例:遠くを見るとき、近くを見るときなど)で、両眼で1つの像として認識でき、かつ本人が「見やすい」と感じる度数を基準に決定します。 また、見え方の快適さや自覚症状の改善を重視し、個々の生活スタイルに合わせて最適な度数を選びます。プリズム眼鏡の処方のポイント
両目で見た2つの像を1つにまとめる力を「融像力」と呼び、その調整できる範囲を「融像幅」といいます。この融像幅は見る方向(上下・左右など)によって異なります。よって、プリズム眼鏡を処方する際は、この融像幅の特徴を理解し、それぞれの方向に合わせて丁寧に調整することが大切です。見え方の特徴
方向によって融像幅が異なります。以下の特徴を理解することが重要です。- 水平方向(左右):調整範囲が広い(約15〜20度)
- 回旋方向(回転):調整範囲が中程度(約10〜15度)
- 上下方向(垂直):調整範囲が狭い(約3〜5度)
処方の基本的な考え方
上下方向の調整が最も難しいため、まず上下方向を直すことから始めます。これで複視が改善しやすく、患者さんの負担も少なくなります。 実際の処方例-
複数のずれがある場合は、上下方向から直していきます
- 多くの場合、上下方向の矯正だけで複視が改善します
- 改善しない場合は、水平方向のプリズムを追加します
プリズム眼鏡に慣れるまでの期間と注意点
最初は複視が残っても、プリズム眼鏡を続けて使うことで、徐々に目が慣れて二重に見えなくなることがあります。フレネル膜プリズムの適応と注意点
フレネル膜プリズムは、プリズム眼鏡の一種で、眼鏡レンズに貼り付けて使用するタイプです。運転時の注意点
基本運転時にプリズム眼鏡を掛けることはやめていただきます。 ただし、どうしても掛けなければいけない患者さんには、見る方向によって2つに見えることを実際に体感してもらい、なるべく正面で見るよう、頭を動かして見てもらいます。処方のポイント
実際の処方における重要なポイント- 遠くを見る時だけ物が二重に見える場合は、眼鏡の遠用部分(上部)にのみ膜プリズムを貼ります
- 近くを見る時だけ複視がある場合は、近用部分(下部)にプリズムを配置
- 全距離で複視がある場合は、レンズ全体にプリズムを適用
組み込み式眼鏡の特徴
プリズム眼鏡には、レンズにプリズムを組み込んだタイプもあります。この組み込み式タイプは、より自然な見た目で、装着感も良いという特徴があります。
組み込み式のメリット
このタイプの眼鏡にはいくつかの利点があります。 たとえば、- 見た目が自然
- 装着感が良い
- 耐久性が高い
- 視力への影響が少ない
一方で、注意すべき点も存在します。
組み込み式のデメリット
以下のようなデメリットも考慮が必要です。
- コストが高い
- 度数変更が困難
- 製作に時間がかかる
検査機器の概要
プリズム眼鏡の処方に用いる検査機器について詳しくご説明します。種類と特徴
この視線のずれを光学的に補正することで、患者さんの生活の質を向上させることができるのがプリズム眼鏡です。 プリズム眼鏡の種類- フレネル膜プリズム:眼鏡レンズに貼り付けるタイプ
- 組み込み式プリズム:レンズにプリズムを組み込んだタイプ
- クリップオン式:既存の眼鏡に取り付けるタイプ
- 複視の原因と程度の評価
- プリズム度数の測定
- 試用テストでの効果確認
- 最終的な処方決定
測定機器
複視の程度を正確に測定し、適切なプリズム眼鏡の処方を行うための専門機器がプリズム測定機器です。まず、どのような特徴があるのか見ていきましょう。
- 水平・垂直・回旋のずれを測定
- 0.5⊿単位での精密測定
- 遠距離・近距離での測定が可能
- 患者さんの自覚症状と照合
これらの測定から、次のような情報が得られます。
- 複視の方向と程度
- 融像幅の範囲
- 最適なプリズム度数
- 処方の効果予測
- 患者さんの頭位を固定
- 測定環境の明るさを統一
- 複数回の測定で精度を確保
- 患者さんの疲労度を考慮
サイクロフォロメーター
眼の回旋(回転)運動を精密に測定する専門機器がサイクロフォロメーターです。複視の中でも特に回旋複視の診断とプリズム眼鏡の処方に重要な役割を果たします。 検査の特徴- 眼の回旋運動を0.1度単位で測定
- 両眼の協調運動を評価
- 複視の原因を特定
- 治療効果の客観的評価
- 上斜筋麻痺
- 下斜筋麻痺
- 外転神経麻痺
- 動眼神経麻痺
- 患者さんの頭位を固定
- 回転するターゲットを提示
- 眼の追従運動を記録
- 回旋角度を解析
- プリズム処方の参考データを作成
- 従来の検査では見逃しやすい回旋複視を発見
- プリズム処方の精度向上
- 治療効果の客観的評価
- 患者さんの症状改善率の向上