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眼の再生医療について 大阪大学大学院主任教授 西田幸二先生から引用

角膜上皮幹細胞疲弊症に対する新たな治療法について

この記事は大阪大学大学院医学系研究科 脳神経感覚器外科学(眼科学)主任教授 西田幸二先生が株式会社ニデックに監修した冊子を引用しています。

眼に化学薬品が入ったり、不適切にコンタクトを装用して眼の表面を傷つけたり、炎症が起こったりすると黒目の表面の透明性を維持する大事な細胞が失われることがあります。 その結果、白目が角膜上に侵入し覆う事で眼の表面が白濁することがあります。このような病態を「角膜上皮幹細胞疲弊症」といいます。

角膜上皮と角膜上皮幹細胞

黒目の表面には角膜上皮という組織があり、角膜を外界から守るバリアとして働きます。 角膜と結膜(白目)の境目を角膜輪部と呼び、そこには角膜上皮幹細胞が存在します。この幹細胞が角膜上皮になる細胞を絶えず供給し続けることで角膜の透明性が維持されます。

角膜上皮幹細胞疲弊症とは?

角膜上皮幹細胞疲弊症とは眼が何らかの原因で傷つき、角膜上皮細胞が失われ角膜上皮を維持できなくなると、周囲から結膜が侵入することで角膜の表面が白くにごり、視力低下や眼痛などの症状が生じる病態です。

角膜上皮幹細胞疲弊症を引き起こす原因

外傷的な原因

熱傷・化学傷:火傷や化学物質の侵入による傷害や炎症 感染症:トラウコーマやアカントアメーバなどの感染症による傷害や炎症 コンタクトレンズ装用:不適切な仕様による酸素透過不良、傷害、炎症

病気が原因

スティーヴンス・ジョンソン症候群:高熱を伴って全身の皮膚や粘膜に発疹や水脹れが発生し、眼にも病変が生じる。 眼類天疱瘡(がんるいてんぽうそう)自己免疫疾患で粘膜が存在する臓器に水ぶくれやびらんが発生し、眼にも病変が生じる。 移植片対宿主病:他人からの造血幹細胞移植や臓器移植により炎症などが引き起こされ、眼に傷害される。

生まれつき・遺伝的な原因

無虹彩症:眼の虹彩が生まれつき欠損している疾患。中高年期になると角膜上皮細胞が足りなくなり、結膜が角膜表面を覆う

角膜上皮幹細胞疲弊症のこれまでの治療法

軽度の角膜上皮幹細胞疲弊症は経過観察がおこなわれる。炎症がある場合は点眼薬などで治療します。 しかし、侵入した結膜は元に戻らない。そのため、角膜上皮幹細胞疲弊症が進行した場合は手術が必要になります。

侵入結膜の切除

角膜輪部が大きく残っている場合は周囲の角膜上皮細胞が伸びに期待できるため、侵入結膜の切除が行われます。

羊膜移植術

周囲の角膜上皮細胞の伸びが期待できる場合、侵入結膜の切除後、炎症を抑制するために羊膜移植が行われます。

自己輪部移植術

主に片眼性の角膜上皮幹細胞疲弊症の場合、患者さん自身の健常眼から角膜輪部を採取し、患眼に移植します。ただし、健常眼への侵襲が大きく、日本ではほとんど行われていません。

他家輪部移植術

角膜輪部が残っていない場合、他の方の角膜から角膜輪部を採取し、患眼に移植します。ただし、他人の組織のため拒絶反応が生じるリスクがあり、移植後は免疫抑制剤が必要です。

再生医療とは?

再生医療とは私たちの身体に備わっている組織の再生能力を引き出し、細胞を使って失われた組織や臓器の機能を回復させることに主眼を置いた新しい治療法です。

眼の再生医療「自家培養角膜上皮」と「自家培養口腔粘膜上皮」

角膜上皮幹細胞疲弊症の新たな治療法として、2020年に自家培養角膜上皮移植が、2021年に自家培養口腔粘膜上皮がそれぞれ公的医療保険の対象として認められました。 これらは患者さん自身の細胞を少量採取し、それを培養して増やし細胞シートに加工したもので患眼に移植すると、細胞シートに含まれる機能が再建・修復されます。 健常な角膜輪部が残っている場合は眼から細胞を採取し、残っていない場合は口腔粘膜を代用として採取します。  

Q&A

眼の再生医療はどこで受けられるのか?

自家培養角膜上皮・自家培養口腔粘膜上皮による角膜上皮幹細胞疲弊症の治療を希望する方は当院で紹介いたします。

入院期間や術後の生活はどうなりますか?

基本的に組織採取は日帰り、あるいは一泊程度の入院です。 移植手術は数週間程度の入院が必要となります。 退院後はしばらく抗生物質などを点眼し、一年程治療用のコンタクトレンズを装用し生活することになります。

眼の再生医療には保険が使えます

自家培養角膜上皮移植は2020年に2021年に自家培養口腔粘膜上皮がそれぞれ公的医療保険の対象として認められました。これらの治療は高額医療費制度の対象となります。 患者さんの自己負担は所得により異なりますが、月額6〜25万円程度(2021年12月現在)とされています。 詳しくは角膜の再生医療のWEBサイトをご覧ください。

この記事は大阪大学大学院医学系研究科 脳神経感覚器外科学(眼科学)主任教授 西田幸二先生が株式会社ニデックに監修した冊子を引用しました。

 

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この記事を監修した医師

おおるり眼科クリニック院長
 鈴木徹
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