【視能訓練士レポート】子どもの近視進行を食い止める!近視抑制治療法とその効果を徹底解説
【視能訓練士レポート】子どもの近視進行を食い止める!近視抑制治療法とその効果を徹底解説
はじめに
こんにちは、おおるり眼科クリニックの視能訓練士、滝です。先日、近視抑制治療に関するセミナーに参加させていただきました。近年、子どもの近視が深刻な社会問題となっており、保護者の皆様からも「子どもの近視が急に進んで困っている」「何か近視を抑制する方法はないか」といったご相談を多くいただいています。
今回のセミナーでは、最新の近視抑制治療法について詳しく学ぶことができました。本記事では、セミナーで得た貴重な知識を皆様にお伝えし、お子様の近視進行を食い止めるための新しい情報をお届けします。
深刻化する子どもの近視問題の現状
驚異的な近視の増加率
文部科学省の調査によると、令和に入っても視力不良者の増加は止まることを知りません。具体的な数値を見ると、その深刻さがよくわかります。
- 小学生:裸眼視力1.0未満の割合が37.79%
- 中学生:裸眼視力1.0未満の割合が60.93%
- 高校生:裸眼視力1.0未満の割合が67.80%
つまり、高校生の約3人に2人が視力不良という状況です。これは非常に深刻な問題と言えるでしょう。
地域による視力不良の格差
興味深いことに、地域によって視力不良の割合に大きな差があることがわかりました。特に以下の地域で高い傾向が見られます。
- 大都市部:東京・京都などの都市部
- 高緯度地域:北海道・青森・宮城など
この地域格差の原因として考えられるのは
- 都会特有のライフスタイル:近業(近くを見る作業)の増加、屋外活動時間の減少
- 日照時間の少なさ:高緯度地域では日照時間が短い
- 積雪による制約:雪国では冬期間の屋外活動が制限される
義務教育期間中の急激な視力低下
最も注目すべきは、義務教育の9年間に視力不良者が著しく増加していることです。小学校入学時は比較的視力が良かったお子様でも、中学校卒業時には近視になってしまうケースが非常に多いのです。
近視予防の基本:屋外活動の重要性
1日2時間以上の屋外活動が近視を防ぐ
セミナーで最も印象的だったのは、屋外活動の重要性についての話でした。研究によると
- 1日2時間以上の屋外活動をすると近視になりにくい
- 近業が長くても屋外活動が長ければ近視になりにくい
これは非常に希望的な発見です。勉強や読書などの近業を完全に避けることは難しいですが、屋外活動を増やすことで近視のリスクを下げることができるのです。
台湾の成功事例
台湾では2010年から「近視予防のために毎日120分以上の屋外活動を促す」という政策プログラムを導入しました。その結果、視力不良者の頻度が低下し続けているのです。
この事例は、国や教育機関が真剣に取り組めば近視患者を減らすことができることを証明しています。家庭でも意識的に屋外活動を取り入れることで、お子様の近視を予防できる可能性が高いのです。
最新の近視進行抑制治療法
近視進行のメカニズム:軸外収差理論
近視が進行する原因として、「軸外収差理論」が注目されています。これは
- 結像面の中心は網膜にピントが合っている
- しかし周辺部は網膜の後ろにピントが合っている(周辺部遠視性デフォーカス)
- この周辺部遠視性デフォーカスが近視進行のトリガーとなる
この理論を基に、様々な近視抑制治療法が開発されています。
各治療法の詳細解説
1. マイオビジョン
仕組み:レンズの中心は度数ゼロ辺りに行くほど度数が上がっていく特殊なレンズ
結果:残念ながら、マイオビジョンの有効性は確認されませんでした。
問題点
- 鼻眼鏡の使用により効果が減弱
- 眼球運動に伴い効果が低下
2. 低濃度アトロピン点眼液
0.01%アトロピン
- メリット:副作用が圧倒的に少ない
- 注意点:高濃度の方が休薬時のリバウンド現象が大きい
0.05%アトロピン
臨床成績
- 5年間にわたる近視進行抑制効果が認められた
- 高い忍容性(副作用が少なく続けやすい)が確認された
治療方針
- 最初の5年間は0.05%アトロピンによる治療を推奨
- 治療中止後に近視が進行した場合は再治療を考慮
- 近視進行のリスクが高い子供には継続治療を行う
3. リジュセアミニ点眼液0.025%
臨床成績
- 近視進行抑制効果のプラセボ群に対する優越性が検証された
- 投与24ヶ月後において眼軸長の伸長を有意に抑制
- 休薬後にプラセボ継続群に比べ有意に近視が進行
- 副作用は16.8%に認められ、主な副作用は羞明(まぶしさ)10.9%
メリット
- 国産・防腐剤フリー・国内認証薬の安心感
- 1日1本のユニットドーズでコンプライアンス管理がしやすい
- メーカーから提供されるサポート資料の利便性が高い
- 同濃度の他剤より高い効果が期待される
デメリット
- 価格が高く自由診療のため患者負担が大きい
- ミニ点であるため点眼しにくい
4. オルソケラトロジー(OKレンズ)
効果的な治療開始時期
- 早期(6~8歳)に治療を開始した方が急激な近視進行を抑制する効果が高い
- 日本人のデータでは大学生(19~21歳)で近視進行や眼軸長伸長はほぼ停止
- 6~8歳で開始し、高校3年生まで継続が理想
注意点
- 中止するとリバウンドする可能性があるため、14歳より若い年齢で中止すべきではない
- 急速な進行がみられる場合は再開すべき
デメリットと対策
レンズ汚れの問題
- OKレンズには涙液由来のタンパク質や脂質が付着
- 複合脂質汚れレンズで緑膿菌付着量が1.7倍
- 脂質+変性タンパク汚れレンズで緑膿菌付着量が2.8倍
対策:レンズ汚れを取り除くことが感染予防に重要
5. 多焦点ソフトコンタクトレンズ
臨床成績
- 単焦点SCLに比べ近視化は59%抑制
- 眼軸長の伸長は52%抑制
- 眼軸長伸長抑制効果は強度近視群よりも軽度~中等度近視群で顕著
- リバウンドもなし
現状
- カナダ、シンガポール、香港ではすでに販売されている
- 日本での承認待ち
6. Red-Light(赤色光)治療
治療方法
- 赤い光を1日3分×2回当てる
- 12ヶ月継続で近視発症を54.1%抑制
デメリットとリスク
安全性への懸念
- 12歳女児が5ヶ月間の治療後に光視症と残像を自覚した報告
- OCTでエリプソイドゾーンの途絶も確認
- 一部の市販器は許容レーザー暴露レベルを超えている可能性
- 長時間の連続照射による光化学的および熱的損傷のリスク
- 長期的な視覚的影響の可能性は未解明
- 子どもの網膜が長時間の照射に対して脆弱である可能性が高い
治療法のまとめと今後の展望
有望な治療法
- 眼鏡:従来の矯正方法も進歩
- オルソケラトロジー:夜間装用で昼間の視力確保
- 多焦点ソフトコンタクトレンズ:高い抑制効果とリバウンドなし
- Red-Light:新しいアプローチだが安全性に課題
薬物療法の進歩
- 低濃度アトロピン:有効性が確認され、本邦でも承認薬が登場
- 光学的アプローチと薬物療法の相加効果も期待される
時代の変化
「近視の進行は仕方がない」という時代は終焉を迎えています。現在は様々な選択肢があり、お子様の状況に応じて最適な治療法を選択できる時代になりました。
当院での取り組みと今後の方針
現状の課題
当院でも、お子さんの近視が急に進んで困っているという親御さんが多く見られ、実際に何か近視を抑制する方法はないかと聞かれることも多くありました。
以前までは
- クリアビジョンを勧める
- 近方ではなく遠方を見るように勧める
といった対応が中心でした。
今後の方針
今後これらの治療方法がより確立していけば、様々な提案をしていけるようになり、患者様が自分のニーズに合ったものを見つけられるようになると考えています。
ただし、現段階ではそれぞれのデメリットも目立っており、医療従事者から100%安全で容易にお試しできますと勧められるものは少ないのも事実です。
最も安全で効果的な方法
実際に講演された先生方も、近業の合間に30秒遠方視したり戸外活動を増やしたりすることが1番安全で簡単に実践できるとおっしゃっていました。
保護者の皆様へのメッセージ
まずは基本から
最新の治療技術が進んでいることをお伝えしたうえで、遠方視することの大切さを引き続きお伝えしていきたいと思います。
具体的な対策
- 屋外活動の増加:1日2時間以上の屋外活動を心がける
- 遠方視の習慣化:近業の合間に30秒程度遠方を見る
- 適切な照明環境:勉強や読書時の照明に注意
- 定期的な眼科受診:近視の進行を定期的にチェック
治療法の選択について
様々な治療法が開発されていますが、お子様の年齢、近視の進行度、生活スタイル、ご家族の希望などを総合的に考慮して、最適な治療法を選択することが重要です。
おわりに
近視抑制治療は急速に進歩しており、お子様の近視進行を食い止める選択肢が増えています。しかし、最も基本的で安全な方法は、やはり屋外活動の増加と適切な目の使い方です。
当院では、最新の治療法についてもご相談いただけますが、まずは日常生活の中でできることから始めることをお勧めしています。お子様の目の健康についてご心配なことがございましたら、お気軽にご相談ください。
今後も最新の近視抑制治療に関する情報を皆様にお届けしていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。