目の腫れ・眼球突出・複視は甲状腺眼症?症状・検査・新薬テッペーザを解説
| ● | 目の腫れや充血、違和感が続いている |
| ● | 最近、目の形や見た目が変わった、または物が二重に見える |
| ● | バセドウ病があり、目の症状が気になっている |
| ● | 甲状腺眼症や新しい治療薬「テッペーザ」について知りたい |
| ● | どの医療機関へ相談すればよいか分からない |
甲状腺眼症は、バセドウ病などの自己免疫性甲状腺疾患に関連して、まぶたや目の奥の筋肉、脂肪組織などに炎症が起こる病気です。眼球突出や複視だけでなく、ドライアイや異物感、目の重さ、見た目の変化から始まることもあります。
すでに甲状腺眼症と診断されている方にとっても、「今はどの段階なのか」「どのような治療があるのか」「テッペーザは自分にも関係する治療なのか」は大切な疑問です。この記事では、講演内容と公開されている医学資料・医薬品情報をもとに、患者さんが知っておきたいポイントを整理します。
| ● | 甲状腺眼症は眼球突出だけの病気ではありません。腫れ・痛み・ドライアイ・複視など、症状はさまざまです。 |
| ● | 甲状腺ホルモンが正常でも眼症がみられることがあります。 |
| ● | 活動性と重症度を評価し、病気の段階に合った治療を選ぶことが重要です。 |
| ● | テッペーザは活動性甲状腺眼症の新しい治療選択肢ですが、適応や副作用の確認が必要です。 |
| ● | 甲状腺眼症とは? |
| ● | 初期症状と複視 |
| ● | 活動期と非活動期の違い |
| ● | 眼科で行う主な検査 |
| ● | これまでの治療とテッペーザ |
| ● | 効果・副作用・治療施設・医療費 |
甲状腺眼症は英語でThyroid Eye Disease(TED)と呼ばれます。 主にバセドウ病などの自己免疫性甲状腺疾患に関連し、 眼球の周囲にある組織へ免疫反応による炎症が起こる病気です。
炎症が起こるのは、眼球を動かす外眼筋や眼窩の脂肪組織、 まぶた、結膜、涙腺などです。 眼窩は骨で囲まれた限られた空間なので、外眼筋や脂肪組織が腫れると眼球が前へ押し出され、眼球突出が起こります。
さらに外眼筋が腫れて動きにくくなると、左右の目が同じ方向を向きにくくなり、ひとつの物が二つに見える複視につながることがあります。
甲状腺眼症はバセドウ病との関連が強い病気ですが、 バセドウ病の方だけに起こるわけではありません。 橋本病などの自己免疫性甲状腺疾患に伴うこともあります。
また、甲状腺疾患と眼症が同時に始まるとは限りません。 目の症状が先に現れてから甲状腺疾患が分かる場合や、 甲状腺機能が落ち着いた後に眼症が問題になる場合もあります。
甲状腺機能の状態と甲状腺眼症の活動性は必ずしも一致しません。 甲状腺ホルモン値が正常であっても、まぶたの変化、眼球突出、複視などがみられることがあります。
甲状腺眼症は、眼球が大きく前へ出る前から症状が現れることがあります。 主な症状を4つに分けると分かりやすくなります。
外眼筋が腫れて動きにくくなると左右の目の位置がずれ、複視が起こります。 最初は「上を見るときだけ」「横を見るときだけ」二重に見え、 進行すると正面でも二重に見えることがあります。 複視が強くなると、歩行・階段・運転・読書・パソコン作業にも影響します。
眼球突出やまぶたの変化により「顔つきが変わった」と感じるだけでなく、 複視があると仕事・運転・歩行・読書などにも支障が出ることがあります。 今回の講演でも、検査値だけでなくQOL(生活の質)やQOV(見え方の質)まで考えて治療することの重要性が示されていました。
治療方針を考える際に重要なのが、現在、目の奥で炎症が活動しているかどうかです。
| 時期 | 状態 | 治療 |
|---|---|---|
| 活動期 | 炎症が続き、症状が変化する | 活動性・重症度に応じた治療 |
| 非活動期 | 炎症がおさまり、状態が安定する | 残った突出・斜視などを治療 |
甲状腺眼症の自然経過はRundle's curve(ランドルカーブ)で説明されることがあります。 炎症が落ち着いても、眼球突出や複視などが必ず元どおりになるわけではありません。
甲状腺眼症は女性に多くみられますが、男性にも発症します。 年齢や甲状腺の状態、治療内容なども含めて評価します。
甲状腺眼症は一つの検査だけで診断する病気ではありません。 問診・炎症・眼球突出・眼球運動・血液・画像検査などを組み合わせて評価します。
充血・眼球突出・複視があっても、すべて甲状腺眼症とは限りません。
| 症状 | 鑑別する病気の例 |
|---|---|
| 充血・腫れ | アレルギー性結膜炎、眼窩炎症、血管異常など |
| 眼球突出 | 眼窩腫瘍、IgG4関連疾患、特発性眼窩炎症など |
| 複視 | 眼運動神経麻痺、重症筋無力症など |
| 視力・視野異常 | 視神経炎、緑内障、その他の視神経疾患など |
自己判断せず、症状の原因を眼科で確認することが大切です。
治療は活動性・重症度・視神経への影響・困っている症状によって異なります。 主な治療は次のとおりです。
ステロイドは炎症を抑える重要な治療ですが、患者さんによっては 眼球突出や複視が十分改善しないという課題がありました。 そこで新しい作用機序を持つ治療薬として登場したのがテッペーザです。
テッペーザ点滴静注用500mgは、一般名をテプロツムマブといいます。 甲状腺眼症の病態に関係するIGF-1受容体(IGF-1R)を標的とする薬です。
IGF-1受容体の働きを抑えることで、目の奥で起きている病的な反応を抑え、 眼球突出や炎症などの改善を目指します。日本では2024年に承認され、活動性甲状腺眼症を効能・効果として使用されています。
[caption id="attachment_6667" align="alignnone" width="300"]テッペーザは点眼薬や内服薬ではなく点滴治療です。 通常、成人では以下の方法で投与します。
| 初回 | 10mg/kg |
|---|---|
| 2~8回目 | 20mg/kg |
| 投与間隔 | 3週間ごと |
| 投与回数 | 合計8回 |
国内第III相試験では、 中等症から重症の活動性甲状腺眼症を伴うバセドウ病患者さん54人を対象に、 テッペーザ群27人とプラセボ群27人で有効性と安全性が検討されました。
ここでいう「奏効」は、 治療した眼の突出が2mm以上改善し、反対眼が2mm以上悪化していない という試験上の基準です。
テッペーザの効能・効果は「活動性甲状腺眼症」です。 甲状腺眼症と診断された方全員に使用する治療ではありません。 また、軽症の活動性甲状腺眼症を対象とした有効性・安全性の臨床試験は行われていません。
| ● | 活動期かどうか・重症度 |
| ● | 眼球突出・複視・視機能への影響 |
| ● | 日常生活や仕事への影響 |
| ● | 糖尿病などの合併症 |
| ● | 聴覚障害など副作用のリスク |
効果が期待できる一方で、治療前・治療中には副作用への注意が必要です。
そのほか、筋肉のけいれん、脱毛、下痢、吐き気、皮膚の乾燥、爪の変化、味覚の変化などがみられることがあります。
従来は活動期の炎症を抑えるステロイド治療が重要な役割を担ってきました。 テッペーザの登場により、 眼球突出などの改善を目指す新たな選択肢が加わりました。
| 項目 | ステロイド | テッペーザ |
|---|---|---|
| 作用 | 炎症を抑える | IGF-1受容体を標的 |
| 眼球突出 | 改善が十分でない場合あり | 臨床試験で改善を確認 |
| 注意点 | 感染・高血糖など | 聴覚障害・高血糖など |
テッペーザは一般的な点眼薬のように自宅で使用する治療ではありません。 一方、目の違和感や見た目の変化を最初に相談する場所が地域の眼科であることもあります。 地域の眼科には、 甲状腺眼症を疑うサインに気づき、必要な方を専門施設へつなぐ役割があります。
テッペーザ治療では聴力評価・血糖管理・副作用への対応が必要です。 患者さんの状態によっては、 眼科・内分泌内科・糖尿病内科・耳鼻咽喉科などが連携できる診療体制が求められます。
眼科と糖尿病・内分泌内科が共同で甲状腺眼症を診療し、 テプロツムマブ(テッペーザ)の点滴を外来で行っていることが公式サイトで案内されています。
静岡県立総合病院の甲状腺眼症診療についてテッペーザは高額な薬剤を使用し、投与量も体重によって異なります。 一方、保険診療の自己負担には高額療養費制度などを利用できる場合があります。 自己負担上限は年齢や所得によって異なるため、この記事では一律の金額は掲載していません。
目の腫れや見た目の変化、目の奥の痛み、複視などが続く場合は、まず眼科で原因を確認しましょう。甲状腺眼症が疑われる場合は、目の状態を評価し、必要に応じて甲状腺の診療科や専門施設と連携します。
今回の講演で特に印象に残ったのは、甲状腺眼症の治療選択肢が増えた一方で、「どの患者さんに、どの時期に治療を行うか」という見極めがこれまで以上に重要になっているという点です。
新しい治療薬が登場すると薬そのものに注目しがちですが、実際の診療では、活動性や重症度だけでなく、視機能や患者さんが日常生活で何に困っているのかまで含めて総合的に評価する必要があります。
地域の眼科としても、新しい治療について知識を更新しながら、患者さんの状態を適切に見極め、必要な医療へつなげていくことが大切だと改めて感じました。
甲状腺眼症は、症状や病気の活動性によって必要な検査・治療が異なります。この記事でご紹介した内容だけで自己判断するのではなく、気になる変化が続く場合は眼科で状態を確認することが大切です。
※本記事は、院長が医学講演で学んだ内容を契機として、 公開されている医学資料・学会情報・医薬品情報などを確認し、 患者さん向けに独自に再構成したものです。 個々の診断や治療方針は、症状、活動性、重症度、検査結果、合併症などによって異なります。
