加齢黄斑変性症
概要
目を正面から見ると網膜(カメラのフィルムに相当)のほぼ真ん中に「黄斑」と呼ばれる部分があります。
黄斑は物の色や形、大きさを感じる視細胞が集まった重要な部位で、中心の「中心窩」は視力を最大限に引き出す部位です。
加齢黄斑変性は加齢によって黄斑とその周囲に出血などの異常変化が起こります。血液循環の網膜外側の脈絡膜から異常な血管(新生血管)が発生します。そのため、物の歪み、中心暗点(見たいところが見えない)、視力低下を生じます
加齢黄斑変性は増加傾向にあり、日本の高齢者の視力障害の原因疾患の一つで今後も増加が予想されます。
滲出型加齢黄斑変性に対しては抗VEGF薬硝子体内投与による治療が可能となり、治療開始時の視力が良ければそれを維持できるため、早期発見、早期治療が重要です。これらの治療法により、以前と比べて重い視力障害を生じることが少なくなりました。
病気のタイプ
加齢黄斑変性の前段階:黄斑部に及びその周辺に軟性ドルーゼンという黄色い「シミ」のようなものが出現します。
滲出型加齢黄斑変性:前駆病変から慢性炎症や加齢による血液循環の低下などにより、網膜の外側の脈絡膜から異常な血管(新生血管)が発生します。黄斑は目の中でも新陳代謝が特に多く、そこに新生血管ができます。新生血管の壁は非常にもろいため、それが破れて出血します。すると、視細胞が障害され、視力が低下、放置すると中心部がほとんど見えなくなる危険もあります。典型例の他にポリープ状脈絡膜血管と網膜血管腫状増殖の2つの特殊型があり、日本人に最も多いのはポリープ状脈絡血管症です。
萎縮型加齢黄斑変性:日本人には比較的少ないタイプ。黄斑部が萎縮するタイプで、萎縮した部分が中心に拡大するとやがて視力は低下します。
原因
加齢
加齢黄斑変性症は年を重ねるとかかる恐れのある病気です。 70歳未満の世代と比較して70歳代、80歳代で加齢黄斑変性は増加します。 欧米では以前より主要な失明原因となる怖い病気として知られていましたが、日本でも高齢者の増加とともに患者さんの数は増えています。
喫煙
喫煙は加齢黄斑変性の発症に27%程度関与しており、大きな危険因子となっています
遺伝
加齢黄斑変性の発症に20%以上関与するとの報告があり、やはり危険因子となっています
栄養素欠乏
ビタミンA、C、E、亜鉛などのミネラルやルテインの欠乏により発症の危険が高まります
その他
太陽光の暴露もリスクになり、特に青色光(ブルーライト)は黄斑部に障害を与えると言われています。特に高血圧の既往の方のリスクが高まると報告されています
症状
- 中央視野のぼやけ
- 目の前に歪んだ直線が現れる
- 色の認識が困難になる
- 目の開いたスペースが見にくくなる
検査
眼底検査
画像検査:光干渉断層計(OCT)
画像検査: 光干渉断層血管撮影(OCTA: OCT angiography)
治療
眼内に抗VEGF(新生血管を抑える薬剤)を注射
抗 VEGF(血管内皮細胞増殖因子)製剤は最も良好な治療効果があります。VEGFの作用を制御する薬で眼内注射により脈絡膜新生血管からの滲出や出血が制御されます。眼内注射は治療開始時は導入期として3ヶ月(月1回を連続3回)、その後は維持期として再発などの追加治療の適応がある時のみに眼内注射を行う方法と再発防止目的で定期的に継続して行う方法があります。注意点は第一に脳卒中を誘発する恐れがわずかですがあることです。第二は高額な治療費です。現在は13万から15万円で、3割負担の患者さんにとって経済的負担が大きくなります。 抗VEGF製剤は病態の進行を制御するもので、見え方の著しい改善は個人差があります。再治療が繰り返し必要となる症例もあります。
光線力学的療法
抗VEGF製剤とPDT(光線力学的療法)を同時に行うことで治療効果の増強と眼内注射の回数を減らすことが可能となる症例もあります。
レーザー光凝固
新生血管をレーザー光で焼き固める治療法です。新生血管が中心窩(黄斑の中心部にある最も重要な部分。この部分に異常をきたすと視力の低下はさらに深刻になります)にない場合の治療法として確立されていますが、正常な周囲の組織にもダメージを与えてしまう問題があります。新生血管が中心窩にある場合はレーザー光凝固術は行いません。